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ハイエナの世界は、どうしてメスがボスなの?

はじめに

サバンナで暮らす斑点ハイエナは、肉食獣の中でも珍しく“メスが群れを支配する”社会を築いています。
オスより体が大きく、気性も荒いメスがボスとなり、順位の低いオスは端に追いやられる――そんな構図はいかにして生まれたのでしょうか。

ハイエナの家族

メスが体格で優位に立つ理由

斑点ハイエナのメスはオスより平均で10%ほど体重が重く、筋肉量も多いと報告されています。
原因とされるのが胎仔期から青年期にわたる高濃度のアンドロゲン(男性ホルモン)です。

メス胎仔は胎盤を介して自ら産生したアンドロゲンに長くさらされ、これが骨格と筋肉の発達を促します。
結果として、成長後のメスはオスより身体的・攻撃的に優位な個体へと仕上がるのです。

擬似雄性化がもたらす影響

アンドロゲンの濃度が高いメスは、生殖器までオスに似た形に変化します。
いわゆる「擬陰茎」と呼ばれる器官で、排尿・交尾・出産のすべてをこの長い陰茎状の器官で行います。

出産時には大きなリスクを伴いますが、代償としてメス優位の社会的地位を得たとの説があります。
擬陰茎が示す見た目の“強さ”と攻撃性は、群れ内での主導権を維持するうえで有利に働くと考えられています。

食物資源の独占と子育て戦略

斑点ハイエナは狩りもしますが、ライオンなど他の捕食者から死肉を奪うこともしばしばです。
メスが協調して大きな獲物を制圧したり、ライオンを追い払ったりする場面では体格と連携が不可欠です。
高順位メスは捕食の場で優先的に栄養価の高い部位を確保でき、その恩恵は授乳を通じて仔にも渡ります。

メスの社会的地位は子にも世襲されやすく、高順位メスの娘は生まれながらに母に次ぐ順位を得ます。
これにより、メスは自らの遺伝子だけでなく社会的優位も次世代に残しやすい仕組みを作り上げています。

オスの役割と生涯戦略

若いオスは出生群れを出て、他群れの低順位オスとして受け入れられるのが一般的です。

群れを移ることで近親交配を避け、多様な遺伝子を取り込む役割を果たします。
移籍先ではメスと良好な関係を築き、少しずつ順位を上げて繁殖の機会を得ようとしますが、最上位にはほとんど到達しません。

オスの生存戦略は“群れを渡り歩き繁殖チャンスを探す”ことに特化し、群れの主導権はメスに委ねる――これがハイエナ社会における性差に適した役割分担となっています。

まとめ

斑点ハイエナにおけるメスの支配は、胎仔期から青年期にかけての高いアンドロゲン濃度による身体的優位、擬陰茎が象徴する攻撃性と社会的地位、資源の独占に基づく子育て戦略が複合的に作用して形づくられました。
オスは群れを移動し遺伝的多様性をもたらす一方、メスは群れ内の秩序と資源分配を主導し、結果的に「メスがボス」の安定した社会が維持されているのです。

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