はじめに
オンラインショップやレストランのメニューで「通常価格9,800円 → 今だけ5,800円!」という表記を見たことはありませんか。
最初に高い数字を目にすると、そのあとの価格が相対的に安く感じられる――この現象はアンカリング効果と呼ばれ、企業はこれを体系的に活用する「アンカリング戦略」を展開しています。
本記事ではアンカリング戦略の基本原理、活用シーン、注意点をわかりやすく解説します。

アンカリング効果の基本
アンカリング効果は、人が最初に提示された数値や情報(アンカー)を無意識の基準にして判断を下す心理的バイアスです。
行動経済学者カーネマンとトヴェルスキーが1974年に提唱し、その後の研究で価格判断や交渉など多様な場面で確認されています。
アンカリング戦略が機能するメカニズム
- 初期提示が基準値になる
- 最初に見た価格が「相場」として頭に残り、のちの判断を引っ張ります。
- 比較による相対的な安さ・価値強調
- 高いアンカーを示したあとに本命商品を提示すると、お得感や高品質イメージが強化されます。
- 情報処理の簡便化
- 消費者は詳しい市場調査をしないまま、提示された数字をもとに素早く判断するため、戦略が成立します。
ビジネス現場での具体例
サブスクリプションサービス
- まず最上位の「プレミアムプラン(月額4,980円)」を掲示し、その後に「スタンダード(月額2,980円)」と「ベーシック(月額1,480円)」を並べると、中間プランが選ばれやすくなります。
家電量販店の値札
- 希望小売価格を大きく表示し、実売価格を赤字で示すことで割引率を視覚的に強調します。
交渉の初期オファー
- 交渉の席で最初に価格を提示した側がアンカーを打つと、相手の反応がその数字を中心に上下する傾向があります。
消費者心理と倫理的配慮
アンカリング戦略は強力ですが、過度に高い定価表示や根拠のない割引率は景品表示法違反や顧客不信を招きかねません。
実勢価格とかけ離れたアンカーは短期的な売上につながっても、ブランド信頼を損なうリスクが高い点に注意が必要です。
アンカリング戦略を取り入れるポイント
- 根拠のあるアンカーを設定し、価格の妥当性を説明できるようにする
- 高→低だけでなく、比較対象を複数提示して「真ん中を選ばせる」設計を活用する
- サービス価値やベネフィットを同時に示し、単なる値引き依存を避ける
- 効果検証のためにABテストを実施し、表示順や価格差の最適幅を探る
まとめ
アンカリング戦略は、最初に示す数字で消費者の判断基準をコントロールするマーケティング手法です。
価格設定や商品構成を工夫することで売上アップや中価格帯への誘導が期待できますが、行き過ぎた設定は法規制や信頼低下のリスクにつながります。
心理バイアスを理解し、誠実さとデータ検証を併せ持った活用が鍵になるでしょう。