はじめに
「最近やせてキレイになったね」と言われながら、実は動悸や手の震え、汗が止まらない――そんな症状が続く場合、甲状腺機能亢進症を疑う必要があります。
代謝を調節する甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、体重が落ち肌つやが増すため、一時的に“美人に見える”ことから俗に美人病とも呼ばれます。
しかし放置すれば心臓や骨に深刻なダメージを与えるため、正しい理解と早期治療が欠かせません。

甲状腺機能亢進症とは
甲状腺ホルモン(T3・T4)が基準値を超えて過剰に分泌され、全身の代謝が必要以上に活性化してしまう状態です。
原因の約9割が自己免疫性のバセドウ病(Basedow病/Graves病)で、そのほか結節性甲状腺腫や甲状腺炎が関与することもあります。
主な原因
- 自己免疫反応
- 自己抗体が甲状腺を刺激しホルモンを過剰産生(バセドウ病)
- 機能性結節
- 腫瘍性の結節がホルモンを自律的に分泌
- 破壊性甲状腺炎
- 炎症で甲状腺細胞が壊れ、ホルモンが血中へ放出
症状
身体変化 | 具体的なサイン | 理由 |
---|---|---|
代謝亢進 | 急激な体重減少 暑がり 発汗過多 | エネルギー消費量が増大 |
循環器 | 動悸 頻脈 不整脈 | 心拍数を上げる作用が強まる |
神経・筋肉 | 手指振戦 焦燥感 不眠 | 交感神経が過度に興奮 |
眼 | 眼球突出 まぶたの腫れ | 眼周囲の組織が炎症・浮腫 |
皮膚・髪 | 皮膚の湿潤 抜け毛 | 代謝促進による皮膚循環増加 |
「やせて元気そう」に見える一方、骨粗鬆症や心不全のリスクが上がるため油断は禁物です。
なりやすい人
- 20〜40代の女性(女性は男性の約5〜10倍)
- 自己免疫疾患の家族歴がある
- ストレス過多や出産後などホルモン環境が大きく変わる時期
- ヨウ素摂取量が極端に多いまたは少ない食生活
診断
- 血液検査
- TSH低値・FT4/FT3高値を確認
- 甲状腺超音波検査
- 腫大や結節を評価
- TRAb測定
- バセドウ病特異抗体の有無を確認
- アイソトープ(123I)シンチ
- ホルモン産生結節を鑑別
治療法
方法 | 特徴 | 利点・留意点 |
---|---|---|
抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル) | ホルモン合成を抑制 | 初期治療の第一選択 副作用モニタリング必須 |
放射線ヨウ素治療 | 甲状腺細胞を選択的に破壊 | 再発率低い 妊娠予定者は慎重に検討 |
手術(甲状腺亜全摘) | 腫大が著しい・結節合併例で適応 | 永続的治癒が期待 術後ホルモン補充が必要 |
生活上のポイント
- 十分な睡眠とストレス管理で自律神経の負担を軽減
- ヨウ素含有食品(昆布・わかめなど)の摂取バランスに注意
- 妊娠希望時は主治医と計画的に治療を調整
- 定期採血でホルモン値をモニタリングし、薬量を細かく調整
まとめ
甲状腺機能亢進症は“美人病”と呼ばれるほど外見を変えることがありますが、体内では心臓や骨に大きな負荷がかかっています。
急な体重減少や動悸、汗の増加があれば早めに内科・内分泌科を受診し、適切な治療と生活管理で合併症を防ぐことが大切です。