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出生率1.15が示す危機 …日本に迫る人口縮小と原因、求められる対策とは?

はじめに

2025年6月4日に厚生労働省が2024年分の人口動態統計(概数)を発表し、年間出生数は68万6061人、合計特殊出生率は1.15といずれも過去最低を更新しました。
さらに2025年1月時点の速報値でも前年同月比マイナスが続き、年間65万人台に落ち込む恐れが指摘されています。
出生数が想定以上のペースで減り続けるいま、何が子どもを産み育てにくくしているのでしょうか。

新生児

人口構造の行き着く先

国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によれば、出生率が回復しない中位シナリオで総人口は2070年に約8700万人、高齢化率は4割に達します。

労働力人口(15〜64歳)は2100年に3800万人規模へ半減し、1人の現役世代が1人の高齢者を支える構造が常態化すると見込まれます。

最新の出生動向(2025年6月時点)

  • 2024年出生数:720 998人(対前年▲5%)
  • 出生率:1.15(前年1.20から低下)
  • 結婚件数:474 717件(対前年▲6%)

出生減に拍車を掛ける「結婚数の減少」が同時進行している点が特徴です。

出生率を押し下げる主な原因

晩婚化・非婚化の進行

平均初婚年齢は夫31.1歳、妻29.7歳(2023年)で過去最高
婚外子が少ない日本では、結婚が遅れるほど出産機会が減少します。

経済的不安と長時間労働

AP通信は若者の結婚・出産意欲をそぐ要因として「賃金の伸び悩みとワークライフバランスの悪さ」を挙げています。
非正規雇用比率の高さも家計の先行き不安を増幅させています。

教育費・住居費など子育てコストの上昇

文部科学省の調査でも「教育費負担が少子化の一因」と回答した世帯が約6割にのぼりました(2024年5月公表)。
都市部では住宅価格・家賃も高騰し、子ども部屋を確保しづらい問題が顕在化しています。

性別役割分業の固定化

家事・育児の8割以上を女性が担う状況が続き、仕事との両立が難しいと考える女性が多いと指摘されています。
男性育休取得率は17.1%(2023年度)にとどまり、国際的に低水準です。

価値観とライフスタイルの変化

2024年に日本財団が実施した意識調査では、子どもを望まない理由として「自分の自由な時間や生活を優先したい」が経済理由に次いで多く挙げられました。 参考

また、Z世代を対象にした別調査では、25%以上が「そもそも子どもを持つつもりがない」と回答し、
自己実現や趣味への投資を重視する傾向が見られます。

不妊治療の遅れと高年齢出産リスク

平均初産年齢が30.9歳に達し、高齢出産に伴う不妊・合併症リスクが拡大。
不妊治療への公的助成は始まったものの、自己負担やキャリア中断の不安が依然大きなハードルとなっています。

このまま少子化が進むと

国立社会保障・人口問題研究所の推計では、出生率が回復しない場合、総人口は2070年に約8 700万人、高齢化率は40%に達します。

生産年齢人口一人で高齢者一人を支える構図となり、社会保険財政・地域インフラ・安全保障まで広範な影響が避けられません。

必要な政策の方向性

出生・子育てへの直接支援

  • 児童手当の拡充
  • 出産費用・不妊治療の恒久助成
  • 若年世帯への家賃・住宅取得補助

働き方改革とジェンダー平等

  • 週休3日制など柔軟な労働時間制度
  • 男性育休の義務化
  • 同一労働同一賃金の徹底で、経済的不安とワークライフバランス問題を同時に緩和。

子育てインフラの強化

  • 保育・学童の待機ゼロ
  • 夜間・病児保育拡充
  • 大学までを視野に入れた教育費負担軽減。

社会システムの再設計

  • 高齢者就労促進と年金制度の柔軟化
  • AI・ロボット活用による生産性向上
  • 永住も視野に入れた外国人材受け入れ
  • 地方移住支援とデジタルインフラ整備。

まとめ

出生率1.15という数字の裏には、晩婚化・経済不安・ジェンダーギャップ・教育費高騰など複合的な要因が折り重なっています。
危機を食い止めるには、結婚・出産への直接支援と働き方・子育て環境の抜本的改革を同時並行で進める「総合パッケージ」が不可欠です。
小手先の施策ではなく、若者が将来設計を描ける社会基盤づくりこそが、人口減少時代を乗り切る鍵となるでしょう。

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