はじめに
ニュースなどで「台風〇号が熱帯低気圧に変わりました」といった表現を耳にしたことはありませんか?
この報道を聞いて、「ああ、台風じゃなくなったなら安心だ」と思う方も多いかもしれません。
しかし、実はそれ、ちょっと危険な思い込みかもしれません。
台風が熱帯低気圧に変わるのには理由がありますが、その後も大雨や強風などの被害をもたらす可能性は十分に残っています。
この記事では、台風が熱帯低気圧に変化する仕組みと、その後の影響について、わかりやすく解説します。

台風と熱帯低気圧の違いとは?
まずは基本的な定義を確認しておきましょう。
- 台風(Tropical Cyclone)
- 中心付近の最大風速が17.2m/s(風速34ノット)以上ある熱帯低気圧を、気象庁では「台風」と定義しています。
- 熱帯低気圧(Tropical Depression)
- 最大風速が17.2m/s未満の、熱帯由来の低気圧です。
つまり、風の強さが基準値を下回った時点で、台風は“熱帯低気圧”と名称を変えるのです。
台風が熱帯低気圧に変わるタイミング
台風は海からエネルギー(=水蒸気)を得て発達しますが、次のような条件下で勢力を弱め、熱帯低気圧へと変化します。
- 海面水温が下がる(台風に必要なエネルギー源が少なくなる)
- 陸地に上陸して摩擦の影響を受ける
- 上空の風(風のせん断)が強く、渦が壊される
つまり、台風が弱まった=熱帯低気圧に変化したということになりますが、だからといって安心して良いとは限りません。
熱帯低気圧になっても油断できない理由
雨雲の量が減るとは限らない
たとえ風の強さが台風レベルを下回っていても、雨雲の発達や配置によっては、大雨による洪水・土砂災害のリスクは残ったままです。
特に日本では、地形の影響で局地的に雨雲が発達しやすく、熱帯低気圧の段階でも数十ミリ単位の猛烈な雨を降らせることがあります。
低気圧としての「前線性」が強まる場合も
台風が温帯低気圧に変化する過程では、前線(寒暖の空気の境目)を伴うようになります。
これによって、広範囲にわたって激しい雨や風を引き起こすことがあります。
つまり、熱帯低気圧や温帯低気圧になった後も、気象現象としては強力なままのことがあるのです。
台風の「残骸」も脅威
一度弱まって消えた台風の湿った空気が、別の低気圧や前線と組み合わさることで、後から再び大雨をもたらすこともあります。
いわゆる「台風の残骸」が後日、災害級の大雨を降らせる例も少なくありません。
実際に起きた事例
- 2018年 台風12号
- 熱帯低気圧になった後も、日本の南西諸島で激しい雨を降らせ続けました。
- 2020年 台風14号
- 本州に接近する直前に熱帯低気圧に変化したものの、九州・中国地方では強い雨風が続きました。
これらの事例からも、「台風が消えた」と報道された後でも、しばらく警戒を続ける必要があることがわかります。
まとめ
台風が熱帯低気圧に変わったというニュースを聞くと、「もう安全だ」と思ってしまいがちですが、実際には風以外のリスク――特に大雨や地盤の緩みといった危険は続いていることが多いのです。
名称にとらわれず、最新の気象情報を確認しながら行動することが、災害から自分や家族を守るための第一歩になります。